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東京地方裁判所 平成12年(ワ)24645号 判決

原告 門奈勇

被告 イ・エス株式会社

右代表者代表取締役 福井豊子

主文

一  本件訴えを却下する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨及び原因について

一  原告が当裁判所に提出した訴状及びこれに添付された甲一(賃貸借契約書)の記載からすると、本件訴えにおける請求の趣旨は、原告が永宮裕之(以下「永宮」という。)に対し賃貸中の建物について不動産競売手続(以下「本件競売事件」という。)が開始されているところ、これを基本事件として、被告を申立人とし、永宮を相手方とする不動産引渡命令(以下「本件引渡命令」という。)が発せられたことを不服とし、本件引渡命令の取消しを求めるところにあるものと解される。

二  そして、右請求の趣旨に対応すべき請求の原因としては、以下の四点の事由を掲げて、被告が永宮に対し不動産の引渡しを求める根拠はない旨主張しているものと理解される。

1  本件引渡命令に対しては執行抗告が提起されている以上、本件競売事件手続は停止されていなければならないこと

2  本件競売事件を担当する裁判所書記官が原告にメモを交付した件につき異議申立てをしていること

3  原告が本件競売事件手続の停止を求める仮処分の申立てをし、当該保全事件担当裁判官の違法行為を理由に忌避申立てをしたにもかかわらず同裁判官から右仮処分命令申立却下決定を受けたため、これに対し即時抗告をし、その抗告棄却決定に対する特別抗告をして係争中であること

4  右保全事件担当裁判官に対する忌避申立事件が現在審理中であることから本件競売事件手続は停止されていなければならないこと

第二当裁判所の判断

一  原告が本件請求の原因として掲げる主張の適否については、ひとまず措くとしても、そもそも本件請求については、その請求の趣旨からすれば、原告が正当な当事者としての資格(当事者適格、原告適格)を有するかにつき重大な疑念があるというべきである。すなわち、一定の裁判の取消しを求める利益は、原則として当該裁判の名宛人である者についてこれを肯定することができるというべきであるところ、本件における原告は本件引渡命令の名宛人とされた者ではないことがその主張自体から明らかである。

また、そもそも不動産引渡命令に対する不服申立方法としては、執行抗告によるべきことが民事執行法に定められている(同法一〇条、八三条四項)以上、その不服については法定された執行抗告手続において審理されるべきものであって、通常の民事訴訟手続においてこれを争うことは許されないというべきであるから、その意味において、本件訴えはその利益を欠く不適法なものといわなければならない(ちなみに、原告は、前記第一・二1のとおり、引渡命令に対しては執行抗告という独自の不服申立方法が存することを知り、現にこれを提起しているものと認められる。)。

したがって、本件訴えは、当事者適格及び訴えの利益という訴訟要件を欠いた、不適法なものといわざるを得ない。

二  ところで、一般論としては、訴えが不適法な場合であっても、当事者の釈明ないし口頭弁論における審理を通じて補正される可能性もなくはないから、そのような場合には、直ちに口頭弁論を経ずに訴えを却下するのではなく、原告に対し補正の機会を与えるのが相当である。

しかしながら、右の訴訟要件のうち、訴えの利益の欠如の点については、不服申立制度の役割分担の問題であって、当事者の主張立証に左右される性質の問題ではないことからすれば、その欠如を補正することは客観的にみて不可能であるといわざるを得ない。また、当事者適格の点についても、本件訴状によれば、原告の認識として、<1>前記第一・二2に関し、不動産競売事件の担当書記官は、裁判官でもないのに公務員職権濫用罪を犯して汚い手書きのメモを原告に交付したとし、併せてそれが執行裁判所「ぐるみ」であるとしていること、<2>前記第一・二3に関し、競売手続停止仮処分命令申立事件の担当裁判官を「売国奴国民背任裁判官」「国賊判事」と称し、申立書の改ざんを二度にわたって強要したものであるとしていることが明らかであり、これらの事情に、原告は本件の訴額算定のための資料提出を拒絶する態度を顕わにしていることをも併せ考慮すると、原告については、本件について、裁判所からの補正に応える意思を窺うことは到底できないというべきである。

したがって、本件については、もはや補正の機会を与えること自体が無意味であり、右各訴訟要件の不備はもはや補正することができないものと認めるのが相当である。

三  さらに、本件請求の原因の適否について付言するに、不動産競売事件手続につき、法はその手続の特質等を考慮して停止事由を厳格に法定している(民事執行法一八三条)ところ、原告の主張する各事由は法定事由のいずれにも該当しない。すなわち、前記第一・二1については、引渡命令に対する執行抗告によって当然に基本事件たる不動産競売事件手続が停止すると解する理由はないし、同2についても異議申立てをしていること自体から競売手続が停止する根拠はなく、そして、同3及び4についても保全事件における決定に対し不服申立てをしていることないし担当裁判官に対する忌避申立てをしていることも不動産競売事件を停止すべき理由とはなり得ないのである。

かつまた、右の各事由の存否が本件引渡命令の効力を左右するものではないことも多言を要しない。

したがって、原告の請求原因事実は理由のないことが明らかである。

四  そうだとすると、前記二のとおり、本件訴えについては、その利益の欠如は客観的にみて補正不能であること及び原告の当事者適格を基礎づけるべき特段の事情につき、原告に主張立証を求めること自体が不能と認められ、したがって、その後の訴訟活動によって訴えを適法とすることが全く期待できないことが明らかであり、これに加え、右三のとおり、本案について理由のない訴えをことさらに提起して遂行しようとすること自体が裁判制度の趣旨に照らしてもはや許されないものというべきことなどを総合すると、本件については、口頭弁論を経ずに、判決により訴えを却下することは是認されるというべきである(最高裁判所第三小法廷平成八年五月二八日判決・判例タイムズ九一〇号二六八頁参照)。

第三結論

以上のとおりであって、本件訴えは訴訟要件を欠いた不適法なものであって、これを補正することができないものであるから、民事訴訟法一四〇条に基づき、主文のとおり判決する。

(裁判官 藤田広美)

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